HYROXは筋トレとランニングだけじゃない。パフォーマンスを決める3つの能力

HYROXパフォーマンスの筋力・走力・疲労耐性の3本柱 HYROX・トレーニング

HYROXで速くなるためには、何をトレーニングすればいいのか。

筋トレ? ランニング? それとも、ランニングと筋トレをひたすら組み合わせる、いわゆるHYROXらしいトレーニング?

もちろん、どれも大切です。

ただ、私はHYROXのパフォーマンスを考えるとき、大きく3つの能力に分けて整理しています。それが「筋力」「走力」「疲労耐性」です。

筋力と走力を高めること。そして、疲労が蓄積した状態でも、その能力をできるだけ発揮できるようにすること。この3つを理解すると、HYROXのトレーニングはずいぶん整理して考えられるようになります。

今回は、SUPERNOVAでトレーニングを組み立てる際の考え方を紹介します。

HYROXパフォーマンスを決める3つの能力:筋力・走力・疲労耐性の3本柱
HYROXの3本柱(SUPERNOVA制作の解説図。HYROX公式画像ではありません)

1. HYROXは、なぜ難しいのか?

HYROXは、1kmのランニングと1つのワークアウトステーションを交互に8回繰り返す競技です。

ランニングは合計8km。ステーションはSkiErgから始まり、Sled Push、Sled Pull、Burpee Broad Jumps、Rowing、Farmer’s Carry、Sandbag Lunges、そして最後のWall Ballsまで続きます。

つまり、単に8kmを走る競技でも、筋力トレーニングの種目を8つこなす競技でもありません。走った直後にステーションを行い、ステーションを終えたらまた走る。この繰り返しが競技の大きな特徴です。

1kmラン8本と8つのワークアウトステーションの順番を示す図
HYROX競技構造(SUPERNOVA制作の解説図。HYROX公式画像ではありません)

2025年に発表されたHYROXの生理学的研究では、シミュレーションに参加した選手の完走時間と最大酸素摂取量などに関連が認められました。また、2026年に発表されたPRO・ELITEカテゴリーの大会結果を分析した研究では、ランニング能力が総合成績に強く関係する一方、ステーションのパフォーマンスも重要であることが示されています。

ただし、競技成績に関する研究はまだ発展途上で、すべての選手に同じ特徴が当てはまるわけではありません。そこで私は、HYROXに必要な能力を次の3つに整理しています。

能力 主な役割
筋力 ステーションで必要な力を発揮する
走力 8kmのランニングを効率よく走る
疲労耐性 疲労が蓄積してもパフォーマンスを維持する

※「3本柱」はHYROX公式の分類ではなく、SUPERNOVAの指導上の整理です。また、3つの能力は生理学的に完全に独立しているわけではありません。

2. 筋力:ステーションをこなすための土台

まずは筋力です。HYROXには、Sled Push、Sled Pull、Farmer’s Carry、Sandbag Lunges、Wall Ballsなど、筋力が関係する種目が多くあります。

例えばSled Push。十分な筋力がある人と、指定された重量をなんとか押せる人では、同じ重量であっても相対的な負担が違います。筋力に余裕があることは、種目を効率よくこなすための助けになります。

ただし、HYROXで必要なのは最大筋力だけではありません。Wall Ballsのように何度も反復する種目では、筋持久力や動作効率、ペース配分も関係します。

では、どんな筋トレをすればいいのか?

これは目的によって変わります。

トレーニング例 主に狙う適応
高負荷・低回数 最大筋力
適切な負荷と運動量を確保する 筋肥大
速く力を発揮する 筋パワー
比較的軽い負荷を反復する 局所的な筋持久力

この表は説明のための簡略化です。実際の適応は重なり合い、負荷だけで一意に決まるわけではありません。

2026年に更新されたACSMのレジスタンストレーニング指針でも、目的に応じてトレーニング変数を調整することが重視されています。

ここで伝えたいのは、HYROXのための筋力トレーニングだからといって、すべてをサーキット形式にする必要はないということです。

最大筋力を伸ばしたいなら、最大筋力を伸ばすための練習をする。筋持久力が課題なら、そのための練習を取り入れる。それぞれの能力を伸ばす方法と、それらを競技中に発揮する方法は分けて考えていいのです。

3. 走力:HYROXの記録を大きく左右する能力

次は走力です。HYROXでは合計8kmを走ります。しかも、ステーションを挟みながら8回に分けて走ることになります。

当然ながら、走ることに多くの時間がかかる人にとって、走力の向上は記録短縮の大きな可能性を持っています。2026年の大会結果分析でも、PRO・ELITEカテゴリーではランニングの速さが総合成績と強く関連していました。

走るのが速くなりたいなら、走る練習が必要

例えば、フレッシュな状態で1kmを5分で走る人が、ステーションで疲れた直後に毎回4分で走れるとは普通は考えにくいでしょう。まずは単独で走ったときの能力を高めることが重要です。

低強度のランニングは、有酸素性の基礎能力や、継続して走るための土台づくりに使います。

テンポ走や閾値付近のトレーニングは、比較的速いペースを維持する能力を狙います。

高強度インターバルトレーニングは、最大酸素摂取量などに関連する能力の向上を狙って活用できます。

ただし、HYROXはレース中の心拍数が高くなりやすいからといって、毎回高強度で走るべきだとは限りません。低強度も高強度も、それぞれに役割があります。

大切なのは、その人に今どんな能力が必要なのかを考え、練習の強度と量を適切に配分することです。

4. 疲労耐性:持っている能力をレース中に発揮できるか

そして3つ目が、私の考える「疲労耐性」です。これは、疲労が蓄積した状態でも、持っている筋力や走力をできるだけ維持して発揮する能力を指しています。

例えば、5kmのランニングタイムがほぼ同じ2人がいたとします。ところがHYROXでは、一方はステーションを終えた後も比較的安定して走れるのに、もう一方は大きくペースを落としてしまう。こういった違いは十分に起こり得ます。

フレッシュな状態での走力が同じでも、疲労した状態で同じパフォーマンスを発揮できるとは限りません。

疲労の進行とパフォーマンス維持の違いを示す模式図(実測値ではありません)
疲労耐性の概念図(SUPERNOVA制作の解説図。HYROX公式画像ではありません)

ただし、「疲労耐性」という名前の単独の生理学的能力が存在する、と言いたいわけではありません。実際には、有酸素能力、筋力、筋持久力、動作効率、ペーシングなど、多くの要素が関係しています。

それらを競技中にうまく発揮するという意味で、指導上「疲労耐性」と呼んでいます。

どうやって鍛えるのか?

代表的なのが、コンプロマイズドトレーニング(Compromised Training)です。ランニングとステーションを組み合わせて行い、直前の運動による疲労が残った状態で次の動作を行います。

  • ランニング → Sled Push → ランニング
  • ランニング → Burpee Broad Jumps → ランニング
  • ランニング → Wall Balls → ランニング

また、レース全体を再現するフルシミュレーションや、一部を取り出した部分シミュレーションも活用できます。しかし、毎回フルシミュレーションをする必要はありません。

ランニングの距離やステーションの重量・反復回数を調整し、改善したい課題に合わせて練習を組み立てればいいのです。

重要なのは、ただ疲れることではありません。ステーション後のランニングペース、動作の質、主観的なきつさなどを確認し、何が改善したのかを評価することです。

5. 3つの能力は、どう組み合わせて鍛える?

ここまでの内容を整理すると、次のようになります。

筋力・走力・疲労耐性のトレーニング例と評価の視点を整理した図
3要素とトレーニング方法(SUPERNOVA制作の解説図。HYROX公式画像ではありません)
強化したい能力 トレーニング例 評価の視点
筋力 スクワット、デッドリフト、種目に応じた筋力・筋持久力トレーニング 筋力、反復能力、ステーションの動作品質
走力 低強度走、テンポ走、インターバル ランタイム、一定ペースの維持、主観的強度
疲労耐性 コンプロマイズド、部分シミュレーション ステーション後の走力低下、ペーシング、動作の安定性

これを見てもらうとわかる通り、それぞれの能力に適したトレーニングがあります。そして、最終的にはこれらを組み合わせて競技パフォーマンスにつなげていきます。

ただし、3つの能力を同じ割合で鍛えればいいわけではありません。

6. 何を優先するべきかは、人によって違う

Aさん:筋力は十分あるけれど、ランニングが苦手

ステーションではそれほど苦労しないものの、ランニングで大きく時間がかかる。この場合、走力を高めることが重要な課題かもしれません。

Bさん:ランニングは速いけれど、ステーションが苦手

走るペースは悪くないものの、Sled PushやWall Ballsなどで大きく時間を失ってしまう。この場合、筋力や筋持久力、種目の技術などを改善する価値が高いかもしれません。

Cさん:単独では走力も筋力もあるのに、後半に大きく失速する

この場合、疲労下でのペーシングや、競技特異的な練習を見直す価値がありそうです。

もちろん、これらは単純化した例です。実際には複数の課題が存在し、どれか一つだけを改善すれば必ず記録が伸びるとは限りません。また、低い能力が必ず最優先というわけでもありません。本人の目標や競技成績にどの程度関係するかを考えることが重要です。

7. トレーナーは何を考えてプログラムを作るのか?

ここまでの話を踏まえると、筋力・走力・疲労耐性を伸ばすための手段は、ある程度整理できます。ただし、その手段を知っていることと、実際にどのメニューを選ぶかは別の問題です。

例えば、週に6回トレーニングできる人もいれば、週に3回しか時間が取れない人もいます。大会まで半年ある人と、あと1か月しかない人でも、取るべき戦略は違います。

限られた時間の中で、筋力・走力・疲労耐性をどう配分するのか。それを考えるために、私はおおむね次の順番で整理しています。

  1. 目標を決める:何を達成したいのか。
  2. 現在地を把握する:今はどの程度できているのか。
  3. 制限要因を考える:何が目標達成の妨げになっているのか。
  4. 資源を確認する:時間、体力、回復、設備、費用など。
  5. プログラムを組む:実行できる内容に落とし込む。
  6. 実行して見直す:成果や反応を確認し、必要に応じて調整する。

同じHYROXという競技を目指していても、全員に同じプログラムが最適とは限りません。その人に必要な能力を、実際に使える時間や体力の中でどう伸ばしていくか。これがトレーニングプログラムを考えるということです。

まとめ:HYROXの練習は、もっとシンプルに整理できる

HYROXのパフォーマンスを考えるとき、私は3つの視点を大切にしています。

筋力を伸ばす。走力を伸ばす。そして、その能力を疲労した状態でも発揮できるようにする。

それぞれに適したトレーニングを行い、最終的にはHYROXという競技の中で発揮できるように組み合わせていく。この考え方を持っていれば、毎回闇雲にきついトレーニングを繰り返す必要はありません。

重要なのは、どれだけ派手なメニューをこなしたかではなく、自分に必要な能力に対して、適切なトレーニングを継続できているかということです。

トレーナーさんは、だいたいこういうことを考えながら仕事をしています。

参考資料

  1. HYROX公式:The Fitness Race
  2. Brandt et al. (2025): Acute physiological responses and performance determinants in Hyrox
  3. Longitudinal performance development in PRO and ELITE HYROX competitions (2026)
  4. Davids (2026): A Performance Analysis of HYROX
  5. ACSM (2026): Resistance Training Guidelines

研究は各能力に関する根拠として参照しています。SUPERNOVAの「3本柱」という独自分類そのものを実証した研究ではありません。

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